生命感あふれる宝生院の真柏

香川県小豆島(かがわけんしょうどしま)
宝生院(ほうしょういん)の真柏(シンパク)

国指定特別天然記念物
樹齢1500年または1600年以上。
応神天皇(おうじんてんのう)の手植えとされる。
樹高約17m。幹周約17m。

宝生院の真柏
宝生院の真柏 (2014年3月撮影©MY)

出発

父から送ってもらった木の写真の中で、この木が一番個性的だと思いました。
躍動感があって、人々を招いているようにも見えます。まさに旅への招待かも?

では、1本の木から始まる発見の旅へ、出発!

 

木の名前も分類も難しい

元気よく出発してみたものの、いや~、最初からレベル高すぎ。「真柏」って何て読むんですか?名前をメールで教えてもらったときに漢字だけで表記されていたので、読めなくてガックリ。ネットで調べると、カタカナで「シンパク」と紹介されていることが多くてホッとしました。

ところが次に困ったのが「シンパク」の分類。「ミヤマビャクシン」のことであるとか、「イブキ」の変種であるとか、サイトによっていろいろな情報がありすぎて、途方に暮れてかけていたら、2015年に行われた調査(第28回巨木を語ろう全国フォーラム開催記念-巨樹・巨木林の健康診断「宝生院のシンパク」の健康診断)の結果を見つけました。

それによると、宝生院のシンパクは、ヒノキ科ビャクシン属の「イブキJuniperus chinensis L.」。そして、別名に「ビャクシン」、「イブキビャクシン」、「シンパク」があって、宝生院の木は「シンパク」の名称で呼ばれているとのことです。

ネットで検索すると、園芸や盆栽のサイトで「シンパク」の名前がよく出てきますが、宝生院のシンパクとは見た感じがずいぶん違うので、本当に同じ種類の木なのか、自分の調べ方が悪いのかと悩みました。

植物図鑑を作るのが目的ではないので、どうしてもわからないものは、推測して自分が納得すればいいということにします。

「イブキJuniperus chinensis L.」と呼ばれる種類の中に更にまたいろいろな種類があるらしく、園芸用は「ミヤマビャクシン」と「カイズカイブキ」という品種、盆栽だと「糸魚川真柏(イトイガワシンパク)」という品種もよく使われているように思いました。

宝生院のシンパクのような巨木や盆栽はあまり見る機会がないですから、日常では見かけない珍しい木なのかと思いましたが、ネットで見つかるいろいろな写真を見てみると、「カイズカイブキ」の方は、あ、これ見たことあるかも、というのがあります。

ここで使える画像がないのでわかりずらい説明になってしまいますが、生垣や庭木として使われている写真を見ると、もしかしてあれもそうなのかな~というのが、いくつも頭に浮かびます。また、結構大きくなる木なんだということもわかりました。

ところで、「シンパク」は「真柏」と「槇柏」のどちらの書き方でもよいようです。あら?柏真ビャクシンと真柏シンパク・・・漢字を前後入れ替えたってことですね。

ちなみに、「柏(カシワ)」という漢字が含まれているので、何か関係があるのかな?と思って調べたところ、柏はブナ目ブナ科の木でした。
ビャクシンは針葉樹、カシワは落葉樹で、全く違う種類の木なんですね。

 

「イブキ(シンパク)」の特徴

「イブキ」の特徴についてですが、別名がいくつもあるせいか、調べるのは結構大変でしたが、次のようなことがわかりました。

  • 分布範囲が狭い。日本では本州、四国、九州、外国では中国中部と朝鮮半島。
  • 海岸などに自生している(主に太平洋岸)。
  • 種類によっては園芸、庭木、生垣に、また華道でもよく使われる。
  • 大きくなると幹にねじれが出やすくなるらしい。
  • 樹皮は赤褐色で、縦に薄く剥がれる。(樹皮の特徴は写真ではわかりずらいことが多い)
  • 花について
    情報が少なく、開花した様子の写真も自分では見つけることができなかったが、開花時期は4月頃らしい。また、花と言っても、花びらが付くタイプのものではないようだ。イメージ的にはスギ花粉の時に紹介されるスギの花(超ミニサイズの松ぼっくりのような形)を更に小さくしたようなものかと思われた。
  • 木材として
    複数の画像を見たところ、赤みがかった、温かみのある色合い。
    出荷量が少なくあまり使われていないようなので、情報も少なかったのですが、よい香りもする高級木材のようです。
  • 実について
    実は「イブキ」で検索してもほとんど何も見つからなかったので、「ビャクシン」で調べたら何枚か写真を見つけることができた。紫がかった藍色のような感じだが、白く粉がかかっている。形が丸く、数個がまとまっているので、ブルーベリーのような雰囲気もあるが、果肉はなさそうだ。

ちょっと寄り道

「イブキ」の実が食用になるかどうかわかりませんでしたが、同じビャクシン属Juniperusの木の実は意外と身近なところで使われていました。

ネズJuniperus rigidaの実は、「杜松実(としょうじつ)」または「杜松子(としょうし)」:漢方薬に使われれています。

セイヨウネズJuniperus communisの実は、「ネズの実」または「ジュニパーベリー」:ジン(蒸留酒の一種)の香りづけや、スパイスとして使われています。

ネズJuniperus rigidaの分布は、もともとは中国や日本の東アジアだけのようですが、最近はヨーロッパでも盆栽として人気があるようです。セイヨウネズJuniperus communisは広範囲に分布していて、ヨーロッパや北アメリカ、アジアにも自生しているんですね。

杜松実もネズの実も、尿酸値を下げる、炎症を抑える、消化を助けるといった効果があるそうです。

ネズの実はフランス語でBaie de genièvreベ・ド・ジュニエーヴルと言います。ビャクシン属の木の漿果(しょうか)(球果)という意味ですね。ベ・ド・ジュニエーヴルはアルザスの伝統料理シュークルートにも使います。固い丸い実のまま入れて、料理すれば柔らかくなりますが、食感がよくないので私はいつも残していますが。。。

「イブキ」または「ビャクシン」としてお寺に植えられていることも多く、天然記念物に指定されている巨木もあります。指定されているものを調べるには、文化庁の国指定文化財等データベースが便利!

例:

  • 城願寺(じょうがんじ)のビャクシン(神奈川県)国指定天然記念物
  • 古長禅寺(こちょうぜんじ)のビャクシン(山梨県)国指定天然記念物
  • いぶき山イブキ樹叢(じゅそう)(茨城県)国指定天然記念物
  • 恩徳寺(おんとくじ)の結びイブキ(山口県)国指定天然記念物

いぶき山イブキ樹叢は1本の木ではなく、小高い山(丘?)の上に何本かまとまった自然のイブキ林。

 

 

宝生院のシンパク、さすが国指定特別天然記念物

宝生院のシンパクに話を戻します。幹は地上1メートルぐらいのところで三方に分かれていて、本幹の根元の一部が空洞になっているそうですが、ネットで見つかる写真では、撮影角度にもよるのでしょうが、3本の大きな木のようにも見えます。

枝も含めて全体がとても生き生きした感じがします。部分によって、亀や龍など、いろいろな形に見えるのにも驚かされますし、ねじれとか、樹皮のうねりのようなものが、この木が生きてきた時間の長さを感じさせます。 

でも、2015年の調査(第28回巨木を語ろう全国フォーラム開催記念-巨樹・巨木林の健康診断「宝生院のシンパク」の健康診断)結果では、生育状況に関する総合的な衰退度レベルが、IからVの5段階評価でIII「不良」となっていました。この結果を考慮してか、2016年に保存会が発足したり、保護のために今年11月に駐車場の舗装を透水性コンクリートにする工事が行われたりと、木を守る活動が進んでいるようです。

写真によって注連縄(しめなわ)の付いているのと付いていないのがあるのはどうしてなのでしょう?

残念ながら葉の形状がわかる写真は見つかりませんでした。

 

それで、国指定特別天然記念物って?

今まで何気なく聞いていた言葉も、ふとしたことで正確な意味がわかっていなかったと気づくことがあります(私だけかもしれませんが)。

天然ということは自然の物ってことだと思うのですが、記念物として指定されるには基準があるだろうし、指定されたら何かメリットがあるのかとか、疑問が次々に出てきました。

文化庁のサイトで提供されている情報によると、天然記念物には4種類あって、動物、植物、地質鉱物、天然保護区域に分類されて、その中に特別天然記念物に指定されているものがあるとのことで、植物で特別天然記念物になっているものは全国に30しかありません。宝生院のシンパクはその一つなんですね。

天然物指定の対象になる条件としては、学術上貴重なものであることと、日本の自然を記念するものということが挙げられていますが、その条件を満たしているかどうか調査や研究が行うんですね。樹木の場合は、名木や巨木だけでなく、並木も対象になるとは驚きでした。

指定されたもの全てではありませんが、必要と判断されたものは保護措置が取られるそうです。

文化庁が公開している記念物(天然記念物だけでなく史跡や名勝も含まれます)の保護に関するパンフレットは、カラーで写真も多くて見やすいのでおすすめです!

 

応神天皇(おうじんてんのう)については?

ところで、宝生院のシンパクを植えたとされる応神天皇って、いつの時代の人でしょうか?ネットで調べるといろいろ異なる情報がありますが、3世紀~4世紀、4世紀~5世紀という説が多いです。
この時代の史実はまだほとんど解明されていないようなので、あまり深く追求せず、5世紀初めなら樹齢が1600年で計算が合うと考えていいのではないでしょうか。

また、3世紀から5世紀頃という数字でとらえるよりも、古墳時代という時代区分に注目した方がイメージしやすくなると思います。

ネット検索の面白い点は、ちょっと調べただけで、正確なものであるかどうかは別として、本当にたくさんの情報が入ってくることで、応神天皇というキーワードだけで、大阪府羽曳野市(はびきのし)に応神天皇陵と考えられている誉田御廟山古墳(こんだごびょうやまこふん)という前方後円墳があることもわかりました。

更に、応神天皇は誉田別命(ほんだわけのみこと)、誉田天皇(ほむたのすめらみこと・ほんだのすめらみこと)という別名がある(他にも別名がありますが、ここでは省略)とわかると、古墳の名前がなぜ誉田御廟山古墳なのかもわかりますよね。それにしても日本語の固有名詞の漢字の読み方って本当に難しい~!

しかも、古墳の前に日本最古の八幡宮とされる誉田八幡宮(こんだはちまんぐう)があると知り、八幡宮について調べるとまた多くの情報が入り、へえ、そうだったんだー、と驚きの連続となりました。

全国にたくさんある八幡宮(全国最多らしいです)は八幡神を祭神としているとのことですが、では八幡神とはどういう神様なのかという疑問が出てきます。

八幡神は応神天皇であるとされ、応神天皇だけを御祭神としている八幡宮と、応神天皇、神功皇后(じんぐうこうごう)、比売神(ひめがみ)の三柱の神様を八幡神としている八幡宮とがあるようです。

ここでまた日本語の難しい点が・・・「三柱」って何だろう?と思ったら、神様の人数を数える数助詞でした。。。で、読み方は?「はしら」だそうです。
「座(ざ)」という数助詞を使ってもいいようです。「木」のことを調べていたら助数詞も学べちゃいました。

話がかなり脱線してしまいました。
実は「3」という数字も気になるんですが、また別の機会にでも。

応神天皇について調べてみて、古墳時代というのはまだ謎に満ちているんだなと思うと同時に、宝生院のシンパクは、その時代に既に存在していたのかと思うと、木の生命力ってすごい!と、ただ驚くばかりです。

そして伝説とは言っても、応神天皇が植えたという話が今にまで伝えられてきたということは、それがいつ頃から伝えられ始めたのかわからなくても、このシンパクに対する人々の畏敬の念の現れなのではないでしょうか。

 

宝生院と小豆島八十八ケ所霊場

さて、このシンパクがある宝生院は、小豆島八十八ケ所霊場第54番札所と紹介されています。宝生院に関する情報がほとんど見つかりませんでしたが、梁に施された天女の彫刻が素晴らしいようです。

小豆島八十八ケ所霊場(れいじょう)は、弘法大師(空海)(774-835)が修行や祈念を行ったとされる霊場とのことで、94か所が公認霊場になっているそうです。全長約150キロ。公式サイトを見てわかったのですが、修行や祈りのために霊場をめぐる(巡拝を行う)人が「お遍路(へんろ)さん」。
どうもこの「遍路」という言葉は、小豆島八十八ケ所霊場と四国八十八ケ所霊場の巡礼のみを指すようなのですが、誰か教えてください。

小豆島八十八ケ所霊場の写真を見ると、ごつごつとした岩壁の隙間に設けられた場所だったり、千枚田が見渡せる場所だったり、本当に驚かされます。
厳しい面と優しい面を持つ自然の中を歩くことで心身ともに修行し祈る道なのでしょうね。

弘法大師というと真言宗の開祖で高野山の金剛峯寺(こんごうぶじ)を開きということぐらいしか知らなかったのですが、讃岐国(さぬきのくに)(今の香川県)生まれで、同じ国の小豆島で修行を積んだんですね、納得。

弘法大師も見たであろう宝生院のシンパク。もしかするとその時代には既に大きくなっていて、弘法大師もこの木に魅了されて一つの修行や祈りの場としたのかな?と思ったりします。

今までどれだけ多くのお遍路さんや島の人たちを元気づけ癒してきたことでしょう。

 

旅のアイデア

寒霞渓
名勝寒霞渓(2014年3月撮影©MY)

エンジェルロード
エンジェルロード(2014年3月撮影©MY)

両親が旅行したときは、小豆島で他にどんな所へ行ったんだろうと気になって聞いたところ、こんな写真が届きました。左の写真は「名勝寒霞渓」だそうです。また漢字が難しすぎて読めない・・・「かんかけい」って読むんですね。

ちなみに寒霞渓は小豆島八十八ケ所霊場のルートに入っているみたいです。

右の写真はエンジェルロード。引き潮の時に道が現れるそうです。

 

今回の旅を振り返って

宝生院のシンパクは、写真からでも大きな生命力が感じられますが、木が発するエネルギーや、木を取り巻く空気や光、小枝の動き、植物の香り、周辺の音などは、やはりその場に行った人だけしか味わえないものです。この記事ではそれらを想像することしかできません。

でも、この木について知ろうとして調べたり、考えたり、わからないことが多くて大変だと思ったり、そうした道のりを楽しむことができました。

今まで、小豆島と言えばオリーブと「二十四の瞳」というイメージしかなかったのですが(すみません)、宝生院のシンパクを通じて、古墳時代や弘法大師ゆかりの遍路道に想いを馳せ、小豆島の歴史の奥深さや文化に、ほんのちょっとだけ触れられたような気もします(自己満足)。今回は気候風土については注目しなかったのですが、1600年もの時を経てもシンパクが大きな生命力を持ち続けているのは、小豆島の自然があってこそなのかもしれませんね。機会があったら是非行ってみたい場所になりました。

この記事を読んでいただいてどうもありがとうございました。

主な出典:
小豆島旅ナビ 
うどん県旅ネット
第28回巨木を語ろう全国フォーラム開催記念-巨樹・巨木林の健康診断「宝生院のシンパク」の健康診断(PDF)
文化庁・国指定文化財等データベース 
小豆島観光ガイド土庄町商工観光課
小豆島八十八ケ所めぐり
筑波実験植物園
サカタのタネ園芸通信
鶴岡八幡宮
小豆島物語
宝生院小豆島霊場第54番札所

参考にさせていただいたサイトの著作権を尊重し、違反しないよう十分注意して書いたつもりですが、もし問題だと思われる部分があればお知らせくださいますよう、お願いいたします。